AXC原理

AXC原理|被害を受けない者による加害の容認の原理

人は、
自分が受けていない痛みを、
軽く扱うことがある。

誰かが、
怒鳴られる。

侮辱される。

脅される。

無視される。

仲間から、
排除される。

そこに、
傷ついた人がいる。

だが、
同じ場所にいても、
すべての人が、
同じ扱いを受けているわけではない。

ある人には、
優しく接する。

ある人には、
親切にする。

ある人には、
礼儀正しく振る舞う。

その一方で、
別の人を、
傷つけていることがある。

すると、
傷つけられていない人は、
自分の経験から、
相手を評価する。

あの人は、
そんなに悪い人じゃない。

私には、
優しい。

ちゃんと話せば、
分かってくれる。

うまく付き合えば、
問題は起きない。

だが、
自分が傷つけられていないことは、
他者が傷つけられていないことの、
証明にはならない。

自分に向けられた優しさは、
他者に向けられた加害を、
消さない。

人は、
相手によって、
態度を変えることがある。

立場によって、
扱いを変えることがある。

逆らう人と、
従う人。

力のある人と、
弱い立場の人。

好意を持つ人と、
気に入らない人。

その違いによって、
同じ人物の、
異なる姿が現れることがある。

だから、
自分の見ている姿だけで、
その人のすべてを、
決めてはならない。

しかし、
加害が容認される理由は、
それだけではない。

問題を知っていても、
関わりたくない人がいる。

自分まで、
嫌われたくない。

次の標的に、
なりたくない。

今の関係を、
壊したくない。

自分の立場を、
失いたくない。

そうした恐れから、
沈黙することがある。

その恐れには、
現実的な理由があるかもしれない。

止めようとしても、
止められないことがある。

声を上げれば、
自分も傷つけられることがある。

だから、
沈黙した人を、
すべて同じ責任で、
裁いてはならない。

だが、
止められないことと、
加害を正当化することは、
同じではない。

何もできなかったことと、
被害を訴える人を、
責めることは、
同じではない。

そこには、
越えてはならない境界がある。

人は時に、
自分が関わらない理由を、
正しいものにしようとする。

あの人にも、
問題がある。

言い方が悪かった。

余計なことをした。

波風を立てた。

もっと、
うまくやればよかった。

そうして、
加害した人の行動よりも、
被害を受けた人の振る舞いが、
問題にされ始める。

傷つけられたことよりも、
傷ついたと訴えたことが、
責められる。

排除したことよりも、
排除を問題にしたことが、
組織を乱したと扱われる。

すると、
責任の向きが、
反転する。

加害した人ではなく、
加害を指摘した人が、
問題の中心に置かれる。

そして、
周囲の人は、
自分たちが傷つけられない状態を、
秩序だと考え始めることがある。

自分には、
問題が起きていない。

今の関係は、
うまくいっている。

だから、
大きな問題ではない。

だが、
一部の人が、
傷つけられ続けることで保たれる静けさは、
誰も傷つけられない秩序とは、
違う。

誰かが、
黙ることで成立する平穏。

誰かが、
離れることで成立する平穏。

誰かが、
我慢することで成立する平穏。

それを、
問題が解決した状態と、
呼んではならない。

もちろん、
被害の訴えも、
事実によって、
検証されなければならない。

一方の言葉だけで、
他者の人格を、
決めつけてはならない。

だが、
検証することと、
最初から疑って退けることは、
違う。

当事者の話を聞く。

何が起きたのかを確かめる。

行為と責任を分ける。

繰り返されているのかを調べる。

自分が見ていない現実にも、
目を向ける。

それが、
他者の痛みを、
自分の経験だけで、
否定しないということである。

人は、
すべての被害を、
自分のことのように、
感じられるわけではない。

すべての加害を、
止められるわけでもない。

だが、
自分が傷つけられていないからといって、
他者の傷を、
なかったことにしてよいわけではない。

自分に向けられた優しさによって、
他者に向けられた加害を、
免責してはならない。

そして、
加害を止められなかったことを、
正当化するために、
被害を受けた人の責任へ、
書き換えてはならない。

人が残れる秩序とは、
傷つけられていない人だけが、
安心できる秩序ではない。

傷つけられた人の声も、
現実として扱われ、
その現実によって、
自らを修正できる秩序である。

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